AppleのM1チップの展望。


Appleの2020年最後のイベントがで披露された新しいM1チップのことを考えずにはいられません。新しいApple Siliconに対する私の興奮は、1つのチップ、1つのコンピュータ、1つの企業に縛られているわけではありません。コンピューティングの次の段階への移行が継続的に、そして加速的に進んでいることを実感しています。
従来のデスクトップ中心のコンピューティングの考え方は、スマートフォンの時代に私たちが当たり前と思っていたものよりもはるかに先を行っています。今日日のコンピュータは、クラウドのサーバ、カバンの中のノートパソコン、ポケットの中の携帯電話など、形を変えています。車やエアコンや冷蔵庫もコンピューター化していますね。ほんの5年前のデスクトップのパワーは、今ではキーボードの中に詰め込まれており、Raspberry Piなどの価格はたったの6000円弱です。
このような環境では、私たちはコンピュータが多くのタスクを処理できる能力を必要としています。強調されるのは性能ではなく、能力です。Intel、AMD、Samsung、Qualcomm、Huaweiなど、誰もがこの目標に向かっています。しかし、Appleの開発は、より意図的で、より包括的で、より大胆なものになっていると感じます。

SoCとM1の発表

故スティーブ・ジョブズ氏の長年の挑戦は、コンピュータの古典的な概念に対したことであり、M1はAppleの最新の挑戦です。この新しいチップは、まずMacBook Air、Mac mini、そして13インチMacBook Proの廉価版に搭載される予定です。
M1についてちゃんと考えたいと思います。
従来、コンピュータは独立したチップをベースにしています。M1はSoC(System on a Chip)として、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、メモリ、機械学習など多くの技術をひとつのチップに集積したものです。具体的には、M1は以下のように構成されています。

  • 4つの高性能コアと4つの高効率コアで構成された8コアCPU
  • 8コアの統合GPU
  • 16コアアーキテクチャのApple Neural Engine
  • 最先端の5ナノメートルプロセス技術
  • 160億個のトランジスタがチップに埋め込み
  • より高品質な映像を実現するAppleの最新画像信号プロセッサ(ISP)
  • セキュアエンクレーブ
  • Appleが設計したThunderboltコントローラはUSB 4に対応、転送速度は最大40Gbps

Appleはプレスリリースの中で、「M1はCPU性能を最大3.5倍速、GPU性能を最大6倍速、機械学習を最大15倍速で実現しながら、バッテリー寿命を前世代のMacの2倍まで長くすることができる」と主張しています。
パーソナルコンピューター全盛の頃に比べるとAppleのこの態度は目を見張るものがありますね。当時は、インテルとマイクロソフトがパソコン業界をを支配しており、AppleはMotorolaという性能の劣るチップを使っていました。その見通しは暗く、Appleは選択肢がなかったが、Intelのプロセッサに切り替えることにしました。そこから静かにシェアを獲得し始めました。iPodの人気もあってか、Appleを知る事になった人たちがMacを買うようになりました。
ジョブズ氏は、競争力を維持するためには、Appleはソフトウェア、ハードウェア、UX、そしてそれらすべてを動かすチップなど、すべてのものを作り、コントロールしなければならないということを身をもって知っていました。iPhoneを見ればわかるように、これはAppleの哲学なのです。
Appleにとって、iPhoneは新たなスタートを切るチャンスでした。Appleの新しい戦略は、iPhone 4と初代iPadに搭載されたAシリーズのチップから始まりました。そこからの数年間で、そのチップはより強固になり、よりインテリジェントになり、より複雑なタスクを行うことができるようになりました。そして、その能力は上がりましたが、電力の消費を少なく維持していきました。この性能と電力のバランスが、このチップをゲームチェンジャーに変えたのです。このチップの最新版であるA14 Bionicは、現在、最新世代のiPhoneとiPadに搭載されています。
AppleはMacを除き、どんどんカスタムチップを搭載した製品を開発・発売していったのです。そしてiPhoneやiPadやApple Watch、そしてひょっとしたらAppleTVやHomePodまでもが、このM1チップの開発の下準備だったかもしれません。

M1が重要な理由

現代のコンピューティングは多用化しています。ソフトウェアはデータのエンドポイントとなり、アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)を使用して動作します。
チップは非常に複雑になっており、消費電力を制御し、より優れたパフォーマンスを生み出すためには、統合と専門化が必要になっています。
Appleのチップ、ハードウェア、ソフトウェアの各チームは、ロードマップを共有し、よい製品を実現するために協力しています。
コンピューティングの未来は、テキストインターフェイスを超えて、視覚と聴覚のインターフェイスが鍵を握っています。
私が思うに、将来のソフトウェアの性能を引き出すのは機械学習ではないかと思うのです。
M1はiPhoneやiPadに搭載されているAppleのチップと非常によく似ていますが、より高性能になっています。これは、単一のメモリプール(DRAM)が、CPU、GPU、イメージプロセッサ、ニューラルエンジンなど、メモリにアクセスする必要のあるさまざまなコンポーネントと同じチップ上に存在することを意味します。その結果、異なるコンポーネント間でデータをコピーしたり、インターコネクトを経由したりすることなく、チップ全体でデータにアクセスすることができます。これにより、非常に低いレイテンシ(遅延)で、より高い帯域幅でメモリにアクセスできるようになります。その結果、電力の消費を抑えながら、はるかに優れたパフォーマンスを発揮することができるはずです。
日々の使用感で考えると、ビデオ会議サービスからゲーム、画像処理、ウェブの利用まで(私はブラウザタブをたくさん比開くので)、あらゆる作業が高速化するはずです。Apple純正アプリもM1のために最適化されたものがほとんどのはずなので、更に速く感じるはずです。
追加情報として、どうやらこのApple M1チップはIntelの最新チップと比べて約半額らしいです。(M1は$75程度)
よって、同じようにSoCを作っているQualcommとかが同じようなPC向けのチップをWindowsようのマシンに開発するかもしれないですね。シングルチップへの統合、最大のスループット、メモリへの迅速なアクセス、タスクに応じた最適なコンピューティング性能、機械学習アルゴリズムへの適応といったアプローチは、モバイルチップだけでなく、デスクトップやノートパソコンにとっても有意義のはずです。
AppleのMac全てがM系列へ移行するには2年かかると言います。今発表されているものは、おそらくAppleのさまざまなMacのチップの最初期のものです。
言うまでもなく、これはAppleにとっては大きな移行です。デベロッパーやユーザーがx86のプラットフォームから新しいチップアーキテクチャに切り替えることになります。ソフトウェアの全世代が互換性を維持しながら、新しいチップで動作するように作られる必要があります。これは開発するデベロッパーはもちろん、ソフトウェアを使用するユーザーに取っても大きな変化です。仕事で使っているソフトがM1版への更新が遅れたら、作業効率に影響するでしょう。ただし、Appleは過去にもこのような移行を成功させている事を忘れてはなりません。
2005年のPower PCからIntelへの移行、x86アーキテクチャへの移行は、新しいオペレーティング・システムであるMac OS Xと共に移行されました。この変更は、開発者にとってもエンドユーザーにとっても、多くの混乱を引き起こしました。私は実はWindows PCと並行してPowerMac G3を使っており、古いMacからOSXベースのマシンに移行しましたが、その差は歴然としていました。。
購入者の多くは、IntelやWindows PCメーカーの数十億ドル規模のマーケティング予算によって、ギガヘルツ、メモリ、速度について考えるように条件付けられています。数字が大きいほど品質が良いという考えは、ラップトップやデスクトップに対する現代の考え方に根付いています。
良く考えてみると、IntelとAMDは、部品メーカーであり、数値的により高いスペックを提供することでしか、その存在意義とコストを要求することができないんです。ギガヘルツとパワーの話を全面に持っていかなければならないんです。
M1チップは単独で語ることはできません。スマートフォンという常に接続されているモバイルデバイスのおかげで、コンピュータは瞬時に起動しなければならなくなり、ユーザーがすぐに見たり、対話したり、離れたりすることができるようになりました。これらのデバイスでは立ち上がりの待ち時間が少なく、時間に対して効率的です。プライバシーとデータ保護がより重視されています。これらのデバイスは、ファンでの冷却や、熱を持っていたり、騒音を発したり、すぐに電源が切れたりすることはありません。このような期待は普遍的なものであり、その結果、ソフトウェアもそれに合わせて進化しなければなりませんでした。
従来のデスクトップコンピューティングの特徴的な側面の一つは、ファイルシステムです。これは、ソフトウェアとその機能が人で動作する世界では有効でした。今の我々は、ネットワーク規模でファイルのやり取りをしているのです。この新しいコンピューティングには、スマートフォンで見られる最新のソフトウェアが必要です。
従来のモデルでは、アプリやプログラムがハードドライブ上に置かれ、ユーザーが使いたい時に実行されるものでした。今のアプリは、常時ONの状態で待機していたり、知らないうちに動いています。iOSのヘルスケアアプリとかは心拍数や歩数を常に記録しています。
現代のソフトウェアは、多くのエントリーポイントを持っています。最近のモバイルOSの変化を見ると、App ClipsやWidgetsのような新しいアプローチの出現を見ることができます。これらは、私たちがアプリについて考えること、そしてアプリに期待することの形をゆっくりと変えようとしています。これらが示しているのは、アプリはリアルタイムでデータに反応する双方向のエンドポイント、つまりアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)であるということです。今、私たちが使用するアプリは、使用するにつれてよりパーソナルでかつスマートになってきています。私たちの行動がアプリの能力を発揮させるのです。これも機械学習です。
Appleは、デスクトップ、タブレット、スマートフォンのオペレーティングシステムを統合して、製品ラインアップ全体で単一のチップアーキテクチャでサポートされる別の種類のソフトウェア統合を試みていますが、従来の性能指標では対応できません。最早CPUのGHz数が意味をなさないソフトウェアの世界になっているのです。.
GPUを例に考えてみましょう。コンピューティングにおける最も大きな変化は、テキスト中心のコンピューティング(メールやウェブ閲覧など)から視覚中心のコンピューティングへの移行です。Zoom会議であれ、Netflixの視聴であれ、写真や動画の編集であれ、画像処理は私たちのコンピューティング体験の不可欠な部分となっています。そのため、GPUは他のチップと同様にコンピュータに不可欠なものとなっています。
AppleのM1は、ハイエンドの統合型グラフィックエンジンを構築し、より高速でより高性能なユニバーサルメモリアーキテクチャと組み合わせることで、コンピュータ内の通常のメモリの上に専用のメモリを搭載した独立したGPUチップを使用しているマシンよりも多くのことを行うことができます。
現代のグラフィックスは、もはやチップ上で三角形をレンダリングすることを目的としたものではありません。むしろ、コンピュータの内部の様々な部分が複雑に絡み合っているのです。データは、ビデオデコーダ、画像信号プロセッサ、レンダリング、計算、ラスタライズの間を高速で移動する必要があります。これは、多くのデータが移動していることを意味します。独立したGPUではコンピュータが熱くなり、ファンが動作し、より高いメモリとより強力なチップが必要とされます。M1は、少なくとも理論的には、チップ上で動作するためデータを移動させる必要性をすべて排除しています。
同様に、音声インターフェースも、私たちのコンピューティングの世界では圧倒的な存在になるでしょう。M1のようなチップを使うことで、Appleはハードウェアの能力を使ってSiriの多くの制限を克服し、AmazonのAlexaやGoogle Homeと比較して優位に立つことができるようになれば、と期待します。
体感的には、画面を開き始めるとすぐにあなたのシステムが表示されることを意味するだけかもしれません。Zoom通話をしていても、コンピューターが熱くならない程度の事かもしれません。動画を見ている時にバッテリーが切れる心配がないことだけかもしれません。
多くの人が気づかない中に、このような小さな変化を起こすことで、私たちの生活が一変してしまうというのは驚きの一言です。

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